心ごと

対象関係論について

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こんにちは、心理系大学院生のsunaoと申します。

 

対象関係論は精神分析において重要な理論であるにもかかわらず、難解でわかりにくい理論であると言われています。

 

どれくらい難解かというと、「対象関係論を深く学んでいくと最終的には宇宙が見える」と言われるほどです。どんだけ壮大な理論なの?

 

今回の記事では、心理学系大学生にもわかるくらいに噛み砕いて対象関係論を説明していきますね。

 

対象関係論ってなに?

 対象関係論とは、現代の精神分析に重大な影響をもたらした精神分析理論の一つです。

 

対象関係論では、自我心理学や対人関係論のように自我や現実適応、実際の対人関係に注目するのではなく、心の中の対象イメージと自我、もしくは自己への関係を研究しました。

 

また、対象関係学派のクラインは、先天的に存在する生と死の本能が生みだす無意識幻想が外界に投影されることによって内的対象が形成されるという考えかたをしました。

 

これは、「内的対象は親子関係などの記憶や経験のつみ重ねによってつくられる」と考えた自我心理学とは逆説的な考えかたです。

 

対象関係論の考えかた

 対象関係論における、特徴的な考えかたは大きく分けて2つに思います。

 

エディプス期以前における母子関係の自我発達の対象関係を扱う理論であること。

 

フロイトはエディプス期以降に自我が発達すると考えたのに対し、対象関係論ではエディプス期以前に自我が発達すると考えました。

 

また、この考えから対象関係学派の人たちは統合失調症のクライエントに対しても精神分析を行いました。

 

・「人の心の中には3次元的な内的世界がある。ここに対象が交流しているし、この内的の自己と対象の関係が投影されて現実世界での対人関係が形作られている」という考えであること。

 

この考えがまさに対象関係論って感じだし、初めて聞くと全く意味がわからない部分でもある。

 

めちゃくちゃ平たく言うと、心の中の世界が現実世界の対人関係に影響しているよって話。 

 

例えば、幼稚園児が担任の先生ごっこをしているとして、その子供が演じる先生は「ありのままの先生」ではなく、「その子から見た先生」ですよね。

 

その子と先生の個人的な関係性が、心の中の先生像を作り出します。また、心の中の先生像を通して現実の先生を見ることで、ありのままではない、限定的に切り取られた先生を生み出します。この内的な世界を扱っていくのが対象関係論。

 

これらの対象関係論の考えかたによって、遊戯療法の発展や、境界例のClや統合失調症のClの研究など、大きな貢献をのこしました。

 

次に、不安の変遷を通して、対象関係論における子供の発達段階について見ていきましょう。

 

不安の変遷

 対象関係論では、赤ん坊の不安は【破滅―解体不安→迫害不安→抑うつ不安】と、大きく3段階に分かれて変遷すると考えられています。ひとつずつ見ていきますね。

 

◆破滅―解体不安

赤ちゃんは、生まれて間もない頃には目も見えず、何が何だか分からない状態です。

 

ここで、赤ちゃんの空腹感やオムツの不快感などは、赤ちゃんにとっては「何か分からんけどめっちゃ嫌なもの」として不安を煽ります。

 

そして、不安を感じた時に、泣くなりしてお母さんが来てくれると落ちつきます。ここでは、赤ちゃんの中の不安はお母さんに投げ入れられていると考えます。

 

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自分の中の不安な感覚を、お母さんがしっかりと理解してくれ、肉体的にも精神的にも受けとめてくれることで赤ちゃんの不安が解消されるのです。

 

これは大人でも同じで、受け止められないくらい嫌なことがあったら人に相談したり愚痴を言ったりしますよね。

ここでも同じように、相談相手に強い不安を投げ入れることで自分の中の不安を和らげようとしているのです。 

 

そして、お母さんに投げ入れられた不安は、もともとは赤ちゃんのものであり、またお母さんを通じて赤ちゃんに戻されなくてはなりません。

 

その際、赤ちゃんは和らげられた不安を自分の中に戻すだけでなく、不安をうけとめる役目としての心のポケット、コンテイナ機能も取り入れます。

 

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こうしたやりとりの中で、赤ん坊は自分の中にあるバラバラの感覚―情動―体験を「ひとつの特定ななにか」として同定していきます。

 

「何かわからんけどめっちゃ嫌なもの」から、空腹の不快感、オムツの不快感として区別して認識され、より詳しく理解されていくのです。

 

こうしたお母さんとの関係の中で、赤ちゃんは不安が和らげることができ、自分の気持ちに向き合えるようになっていきます。

 

◆破滅―解体不安から迫害不安へ

 破滅―解体不安という、たまらなく不安で、何かよくわからない悪いものが自分の内側から自分をバラバラに断片化してしまう恐怖からなんとか逃れようと赤ちゃんはあがきます。

 

そこで、愛情に満ちた安心できるよい自分(部分)を高めていきます。また、その良い自分を、「自己全体を破壊しこなごなにしてしまいそうな攻撃性に充ちた悪い自分(部分)」から隔離することで守ろうとします(分割splitting)。

 

こうして、良い自分悪い自分の分割が行われます。

 

良い自分とは、ミルクを飲むように、良い自分の中によい対象を取り入れ、同化することで育ちます。

 

逆に、悪い自分は、尿や吐物を体から出すように、悪い自分を悪い対象群の中に投影し、排泄することで育ちます。(自分の中の破壊、解体不安を隔離する)

 

この悪い自分を押しつけた悪い対照群は、自分を攻撃してくるように感じられます。このようにして、自分の破壊―解体不安から、対象群からの攻撃という迫害不安へ変化します。

 

○妄想―分裂態勢の要素○

  1. 迫害不安(妄想性の不安)
  2. 自己や対象の分割と断片化/部分自己、部分対象群
  3. 分裂機制:分割、投影同一化、原始的理想化
  4. 自己と対象との融合/象徴機能の消失
  5. 思考の具体化
  6. (身体感覚に近い)より未熟な感情

 

◆迫害不安から抑うつ不安へ

 この段階になると、おっぱい・笑顔・腕などの母親(部分対象群)が一人の母親(全体対象)にまとまっていきます。

 

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つまり、外界と内界での対象が区別されていながら、それぞれの全体対象が結びついている、より現実的で安定した内的世界にかわっていくのです。

 

今までは「機嫌のいいお母さん」「機嫌の悪いお母さん」がそれぞれ別のもので、悪いものに対しては嫌いで攻撃的な態度、いいものに対しては好きで愛情的な態度をとっていました。

 

しかし、実は悪いお母さんもいいお母さんも同一人物であることを知ると赤ちゃんは「私が愛している人に対して、私は傷つけるような行為をしてしまった」と気づいてしまい、ショックを受けます。(抑うつ状態)

 

良いおっぱいと悪いおっぱいの結合という全体対象への変化により、自己の攻撃性への悔い・自責感/良い対象への寂しさ・思い焦がれ/償い・修復願望が生まれるのです。

 

この段階の重要な課題として、悪い自己のとりいれがあります。分割していた悪い自分も自分の一部なので、良い自分と悪い自分を1つにまとめなければなりません。

 

つまり、生後まもなく取り扱えなかったゆえに内的対象に向けて排出された自己の破壊性を、大きな愛情欲動のもとに新たな形で自己のなかに包み込んでいく作業です。

強化された生の本能が、死の本能の支配下にある自己を内包しようとしているってこと。

 

○抑うつ態勢の要素○

  1. 抑うつ不安(罪業感、悲哀、自責、熱望、寂しさ、哀悼、悔いなどの痛々しい感情体験)
  2. ひとつにまとまっている内的全体対象と全体自己。この対象は死んでいる/死にかかっている対象、傷ついている対象でもある。
  3. より成熟した心的メカニズムが働く:分割の減少、具体性を持つ過度な投影同一化の減弱、過度な理想化の修正。すなわち、統合に向けて心的機制が使われる。
  4. 自己と対象とが分離している(投影同一化による自己と対象の混在が修正される)
  5. このことによって象徴機能が作動し、思考機能が成熟していく:抽象思考ができる。
  6. 愛情表現に基づくより成熟した感情の発達:思いやり、気配り、償い、感謝。

 

 

対象関係論に基づく治療

 精神分析では、幼児期などに精神的なダメージを受けたり、乗り越えられない課題があった時点を固着点と呼び、治療の際にはこの固着点の段階まで戻ります。

 

精神病圏内のClは固着点が幼児期にあるため、精神病圏内の心理療法は対象関係学派が得意としています。

 

ただ、成人した健康な人でも、痛ましさや不安を体験していく時には全体自己でいられず、自己と対象を分割してしまうのです。

 

下の図のように、すべての人は対人関係で2つの心的態度のどちらかをいつでもとっており、この2つの態勢にあわせてカウンセラーはClと関わっていきます。

 

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2つの学派

 対象関係論にはクライン派と独立学派の2つの学派に分かれています。

2つの学派の違いについて詳しく見ていきましょう。

 

◆クライン派

 クライン派は、自己と対象はときに融合してしまい区別がきえてしまうことはあるとしても、出生時にはすでに両者間での分離がもともとなされていると考えます。

 

つまり、分離した自己は出生時すでに存在しているので、精神病者でもそうした分離した自己に話しかける解釈がその自己を成長させると考えるため、無意識の思索や感情を伝える言葉による解釈を行います。

 

◆独立学派

 出生時には自己と対象は渾然一体となっており、母親の世話の中で両者が分離してくると考えます。ウィニコットは「一人の赤ん坊は存在しない。ひとつの赤ん坊―母親関係だけしか存在しない」と言っています。

 

つまり、自己と対象の分離はもっと成長した時期と考えるため、言葉による解釈ではなく非言語的な支持や安全な精神身体環境の提供を行います。

 

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参考文献

 

対象関係論を学ぶ――クライン派精神分析入門―― 松木邦裕 岩崎学術出版

精神分析体験:ビオンの宇宙――対象関係論を学ぶ立志編―― 松木邦裕 岩崎学術出版

現代対象関係論の展開――ウィニコットからボラスへ―― 舘 直彦 岩崎学術出版